Extra Joyful
□ウェディングロード
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頭に大きな花の髪飾りを付け、アップされた髪から覗かせる両耳のピアスは透き通った輝きを放つ
遠慮がちなメイクを施し、それでもいつもよりパッチリな瞳
頬をピンクへとほのかに染め、ぷっくりと膨らむ唇には薄く赤を乗せる
鏡に映る姿は、生涯の中で一番綺麗だった
「ミサカは任された大役をしっかり果たしてみせるんだから!ってミサカはミサカはトモの裾を掴みながら練習してみる」
「馬子にも衣装って感じ?まあ、トモ綺麗だよってミサカも素直に言ってあげる」
両側から椅子に座るトモを真ん中にして二人は顔を覗く
先程から話し掛けているんだが、何の返事も返って来ない
何時ものトモなら一緒に騒いでいてもおかしくない筈だが、
「完全に固まってるって、緊張してるのかなってミサカはミサカは少々心配してみたり」
「違う違う、こりゃ自分に見とれてる顔だな」
おーいトモ〜!と、両側から手をパタパタさせてトモの意識をこちらに向けさせる
それに遅れて気付いたトモは、ハッとして打ち止めと番外個体の顔を交互に見た
「どーしよ!?鏡に変な人が映ってます!」
頬に手を当て、信じられないと鏡に映る自分の姿に目をぱちくりさせて見やる
「ホラね、ミサカの言った通りでしょ」
「変な人じゃないよ、正真正銘トモだよってミサカはミサカは状況説明をしてみる」
呆れたように言う番外個体は腰に手を当て首を振り、打ち止めはトモの手を取りうんうんと頷いた
「そう言えば二人も別人みたいなのさッ!可愛いドレス」
「ミサカはピンクなのってミサカはミサカは番外個体とお揃いなフリフリミニを一回転しながら披露してみたり」
「ミサカは情熱の赤ってねってトモの純白にも負けず劣らずなワケよ」
二人のミサカは裾を持ち良く見える様にお披露目
それに拍手を送るトモは椅子から立ち上がり自身のドレスを見せる
膝上丈のミニスカートの打ち止めと番外個体とは対照的にトモのドレスは身長も優に越し、床にまで延びる長い真っ白なドレス
まさに本日の主役そのものだ
「入るじゃんよー」
「三人揃って何してるのかしら?」
そこへ此方も打ち止めと番外個体の可愛らしいドレスとは打って変わり、清楚で綺麗と言う表現が似合う黄泉川と芳川が部屋へ
三人並んでドレスの裾を取り並ぶ光景が何だか微笑ましかった
「等々来たって感じだけど、気分はどうじゃんよ?」
「あんまり実感がわかないなぁ」
「トモがまさかウェディングドレスを着る日が来るなんてね」
親の居ないトモにとっては、二人が親以上の存在
またそれは黄泉川と芳川にとってもそうであり、トモは家族であり子供だ
勿論、打ち止めと番外個体も例外では無い
三人共が大切で大好きな子供だ
「ミサカはあの人とトモの赤ちゃんになるのってミサカはミサカは練習してみる!ばぶぅ〜」
「ミサカは姑役ね、二人は家政婦として雇ってやんよぉ?」
「任せとくじゃん!美味しい炊飯器料理振る舞わせて頂くじゃん」
「じゃ私は掃除担当って事かしら」
控え室には笑顔が溢れる
特に日常が変わる訳では無い
何時もより綺麗に化粧を施してもらい、綺麗な服に身を纏っているだけ
トモにとってはそんな感覚だった
「でも何だか緊張してきた…!」
そんな感覚だが、時間が迫ってきている事にひしひしと実感がわいてくる
今日、この日をもって結婚するんだ…と。
「いつも通りのトモでいいのよ」
そう言って芳川はトモの肩に手を置いた
手の温もりがとても安心出来て、緊張を和らげてくれる
「さーて、アッチの方も準備終わってるだろうし、なにより時間じゃん」
「トモが転んで大恥かかないようにしっかり後ろは守ってあげるってミサカはミサカもドキドキしてきたぁああ!?」
「ハイハイ、ミサカは打ち止めが転ばないようにトモを見張りつつアンタの心配をしてみるわ」
「それじゃ、行きましょうか」
笑顔で大きく頷いたトモの手を打ち止めが急かすように引っ張り控え室を後にした
特に日常が変わる訳では無い
朝から元気な挨拶をくれる打ち止めに起こされ、寝ぼけるトモをため息を零しながら番外個体が朝食の並ぶテーブルの前の椅子を引いてくれる
日に日にパワーアップしていく黄泉川の美味しい炊飯器料理を食べ口から零れたカスを呆れたように芳川が拭ってくれる
それが平凡で大好きな日常。
少し変わるとすれば、
「ナニ泣いてンだァ?早すぎンだろォが」
「あくせられーたあッ…!」
今日この日、一方通行と結婚するってことが少しの変化
「今日は一段とカッコイイよレータ!」
「オマエはいつもどおりボケだな」
「ついにこにょ日がやっでぎで…」
「オイ、今すぐその鼻水どォにかしねェと分かってンよなァ?」
引き摺るドレスも気にせず、一方通行を見つけた瞬間に飛び付く花嫁に婿は平然とする
せっかく綺麗にしてもらったお化粧も早々と感極まったトモの涙と鼻水で台無しになる+真っ白なタキシードに身を包む一方通行の肩が鼻水でドロドロになる前に止める
「一方通行も人の子ってねー?内心デレるアナタも楽しいからミサカは別にいいんだけどさ」
「この数ヶ月の打ち合わせは全て台無しだねってミサカはミサカは式初っ端からの打ち合わせに無かった行動にどうしたもんかと考えてみたり」
そうしてトモと一方通行は首だけで振り返る
後ろには打ち止めと番外個体が呆れたように立っていた
現在、式は始まりを迎えたばかりだ
メイン扉を開け、沢山の参列者に見守られ打ち止めと番外個体にウェディングドレスの裾を任せ、待っている一方通行の腕を取り真っ赤な絨毯の上を歩く…
本日の念入りに打ち合わせをした予定だった
「本番中なの忘れてたぜ!」
テヘッと自身の頭を小突いたトモは、
「気を取り直してー!始めまーす」
目を丸くして唖然としていた、今日お祝いしてくれる為に来てくれた招待客に対して笑顔を向けた
その場に居た者は揃って思った
こんな時まで、綺麗に着飾っていても何も変わらない
なんとトモらしいんだろう、と。
「ビビってンか?腕が振動してるっつーンだよ」
「だだだって、もうすぐそこだよ!?緊張モンですよ!手離しちゃダメだよ!?」
「オマエがな」
「じゃ離れないでね」
「ハイハイ」
腕を組み、ウェディングロードを暖かな目で見送られ歩く中、トモの一方通行の掴む腕が密かに震えていた
本当に今更な花嫁を適当に落ち着かせる
小声での会話に話は聞こえないも後ろから見守る打ち止めと番外個体は、そんな二人に顔を見合わせて微笑んだ
今日から彼女は彼の妻に、彼は彼女の旦那に…
幸せな未来を想像し真正面から笑顔で見つめてくるトモに、何だか照れくさくなって一方通行は目線を少しだけ反らした
「――――その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
――――
「……ち…かい、ま…す」
「あン?」
腰に回された腕により一層力が入った
見ると、幸せそうな笑みを浮かべて呟きだした
「なーンですかァ?ほっンとオマエってアホ面の塊りだな」
ベッドの上で身体だけを起き上がらせ雑誌を読みふけていた一方通行は、膝を枕にされ腰にピタリとくっつき虫なトモをどこか優しい表情で呆れた様に見た
起きていない所からすると、呟きは寝言か
全く、アホ面で幸せそうな顔で眠り、寝言で誓いますだなんて、どんな夢を見ているんだろうか
「まァ、オマエのアホ面はクソ平和だわ」
トモからの返事は無かった
だが、返事を返しているかのようにとびっきりの笑みを浮かべ更にギュッとしがみ付くトモに一方通行は、暇な左手でクシャッとトモの頭を撫で、再び雑誌に目をやった
ウェディングロード
(あ、くせらぁ)
(まァた寝言かァ?一体ナニ見て、)
(ちかい、の…ちゅぅ…)
(………はァ?吸い尽くすぞコラ)